第66章 ❤︎ 初恋は実らない 宮治
「ごめ…っ、んんッ」
この場に及んで気の利いた言葉なんて言えへんし、自分の一方的な想いをぶつけるように唇を塞ぐ。初めてのキスは涙と微かにタバコの味が混じっていた。荒く口付けたまま今はもう使ってないツムのベッドに押し倒すように雪崩れ込む。
「抵抗くらいせぇよ…」
「私、どうしたらいいのか分からんもん」
「金貯まったら家出てほんで俺らの前から姿消すつもりやったんか」
「もう会わない方がいい。こんな偶然でも、相手が治でも、会ったらあかんのやなってそう思った」
「そんなん許さへんから」
「許してくれなくていい」
「それやったらもう、どこにも行くな…」
仕舞い込んでいた感情が溢れ出す。いちかは手に入らんからせめて俺の目の届くところで幸せになってて欲しかった。幸せに満ち溢れた無垢な表情で俺の名前を呼んで欲しかった。寄り添っていたかった。ただそれだけやった。その希望が見るも無惨に砕け散って空っぽになった腕の中に震える小さな体を抱く。
コートを剥がし中のワンピースを強引にたくし上げてそのまま脱がせた。裸体を覆った最後の布は淡いブルーで揃えられていた。これを他の男の目に触れさせてきたかもしれない事実にまた黒い感情がポツリと浮かび上がる。
「治…、これ以上は…っ」
「なんで?お前のこと買うてやる言うてるんやで?」
「でもっ」
「金、要るんやろ?今から俺の知らん男に抱かれくるらいやったら相場の倍払っても惜しないわ」
柔らかな下唇を舐めるように侵入させた舌で強引にキスを交わしていく。何度か歯が当たり、血の味が混ざってもキスを止める事はなかった。
いちかの両腕を頭の上で拘束するように掴むと首筋から胸元の素肌に口付けていく。ツムとの思い出がつまったこの部屋で、ツムに抱かれただであろうこのベッドであれほど好きで大切でいつも笑っていて欲しいと願っていた存在を穢す。
「……や」
消えそうにか細い声が耳に触れても体は止まらない。露わになった肌には胸元に色濃くキスマークの痕が残っていて俺もツムも知らない男に抱かれたであろう証拠だった。紅く残る場所に歯を当てて歯形が残るように歯を立てる。歯に皮膚の柔らかな抵抗が伝わる。
「痛…っ」