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(R18) kiss hug ❤︎ HQ裏夢

第66章 ❤︎ 初恋は実らない 宮治


語尾をかき消すように無理に笑う。自分の感情も無理矢理に飲み込むように、仕草一つ一つが見ていて痛々しい。

「一つだけお願いしてもええ?」
「何?」
「今まだ別れたこと両親に言うてへんねん。だからまだ言わんといて欲しいの。お金溜まったら言うて出ていくからそん時に自分で言うから」
「働いてんのか?」
「んー、まぁ色々とね」
「なんやねんその意味深な表現」

何も答えず困ったように笑う。あの頃と可愛さは変わらないのに無垢な笑顔ではなかった…痩せた体が心配に思える。

「ほな私そろそろ帰るね。久しぶりにこの部屋見れてなんか嬉しかった」
「ちょ待てって…。お前、今、何してんねん」

いちかはドアの方を向いたまま何も答えない。

「変なことしてへんやろな」
「……してへんよ」
「嘘やろ」
「ごめん。もう帰らなあかん…、仕事…予定あんねん」
「……男か?」
「そんなんとちゃうから」
「ならはっきり言えって。人に言えへんようなことしてんのか?」

返す言葉がないのかいちかは俯いたまま黙り込む。聞けば聞くだけ虚しくなる。これ以上踏み入れたくないのにいちかを分かってやれるのには俺しかおらんって薄っぺらい正義感が掻き立てる。

「行かせへん」
「約束あんねん」
「なんぼ出せばええ?」
「え?」
「俺が買うてやるわ」
「………え?」
「今やってんの、そういう仕事なんやろ…?」
「………うん」
「なんでやねん…」
「大丈夫。優しい人もおるから…」

無理に笑おうとする表情見るだけで息ができんくらいに苦しくて俺は咄嗟にいちかを抱き締めていた。

「俺ら、…なんでまた再会したんやろな」

ツムみたいな華やかさはなかったけどそれなりに充実していた。けどそれを彩っていたのはいちかに対する淡い恋心。報われない気持ちを抱えて好きな人が幸せになっていくのを見守るのも悪くはなかった。

「俺はずっといちかが好きやった。今やって変わってへん。片思いのまま終わってツムと幸せになってくれるなら綺麗なままの思い出として終われてたのにな」
「ごめんね…。私が全部悪い」

ああ、こんな苦しい“ごめんね”は初めてかもしれん。苦しいを超えて痛い。込み上げてくる感情全部が突き刺さるように痛い。
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