第66章 ❤︎ 初恋は実らない 宮治
いちかは何も言わずに俺の後をついてくる。なんで引き留めたんやろう。このまま追わん方が自分のためやのに…。まだいちかを想う情けない自分がそうさせてんのか。それやったら結局俺はなんも変わってないままや。
どうしたらいいか分からない感情を抑え込みながら平然を装う。熱い緑茶を淹れてる間も沈黙が包む。
「茶しなかくてごめんな。来るん分かってたら茶菓子でも買うとったのに」
「大丈夫。すぐ帰るから」
「まぁええやん、ゆっくりしてったら」
「でも」
「久しぶりに会ったけど痩せた?」
「あ、うん…。少しね」
手渡したお茶を息で冷やしながら口をつけまたしばらく口をつぐむ。じっと見つめた先のいちかはやつれたようにも見えた。
「ごめんね」
「なんで?」
「こんなことになって」
「俺は部外者や」
「でも酷い話やんな」
「いちかはその新しい男と結婚すんの?」
部外者。そう言いながらそんなことを今更聞いてもどうしようもないのに。いちかは少し苦笑してから俺の見て首を横に振る。
「結婚せへぇんの」
「なんで?」
「私が好きになった人にも好きな人がいたから」
「は?嘘やろ…」
「侑と別れた後に告白してん。そしたらその人も好きな人がおって…で、その人と今付き合ってる」
「なんやねんそれ」
「私が全部悪い話やから」
「お前ら二人に何があってん」
「侑は練習、私は仕事。それですれ違ってばっかりで。私もずっと仕事上手くいかへんくてさ…。自分に自信なくなって侑に釣り合う女になれてないんじゃないのかって急に不安になって」
「あんだけ想われててか?俺でもきしょいと思うくらいに一途やったで」
「それすらもう分からんようになってた…。でも今の現状見て侑のためにも別れて正解やなって思う。今の自分がこれまでで一番嫌いやもん」
「なんで俺に一言くらい相談せぇへんねん」
「何回もお店の前に行ってん。治の頑張ってる姿も見てん。私も頑張ろうってちゃんと仕事で認めてもらえるようになったら治に会いに行こうっていつもそう思ってた」
「そこまで来てるんならなんでもう一歩踏み出さんねん。俺に相談してたらこんなことにはなってへんかったかもしれんのに」
「ほんまにね…。治の言う通りや。でも終わったことや」