第66章 ❤︎ 初恋は実らない 宮治
ツムからの報告の二週間後、その日は不運にも店の機械が電気系統の故障で臨時休業となり俺は実家で過ごしていた。何もすることのない時間、というよりは何もする気が起きなかった。
「なんで俺まで引き摺っとんねん」
譫言のように呟いた独り言が静寂に消える。平常心装ってても渦巻くような黒い影が重くのしかかる。これならまだ仕事で忙しくしてた方が良かった。今更いちかの存在の大きさを知ったところで何にもならないのに。
ソファーに凭れ睡魔に誘われるまま意識ごと委ねる。やっぱ実家のソファはいい。長年この身を預けてきたらどんな俺でも受け入れてくれる。昼寝なんていつぶりやろう、寝ること以外この重い感情から逃れられる方法がない、いっそこのまま……そう思って目を閉じた数分後インターフォンが鳴った。このタイミングで嘘やろ、と思いながらも重い体を起こす。
「はいはい、待ってやぁ」
ドアを開けると容赦ない午後の日差しが視界を歪める。目を凝らした先にいたぼんやりとした人影。徐々にクリアになって“あ…”と意識した瞬間、ドクンと心臓が鳴った。
「あ、れ…。治…?」
いちかが俺の目に映った瞬間、完全に言葉を失っていた。俺の様子に気不味そうに視線を逸らしたいちかは段ボールを差し出した。
「急にごめんね、これ、うちのお母さんから…。早く持っていかんと痛むし」
段ボールに入れられたにオレンジ色のみかんは微かに爽やかな香りを運ぶ。
「そういやそうやったな。年末になると毎年くれてたもんな」
「渡しておいてもらえるかな」
「ん…、了解」
「ほな、私はこれで…。よろしくお伝えください」
「なんでそんなよそよそしいん?」
「別にそんなわけじゃないけど用はこれだけやったから。じゃあまた」
「まぁ待てって」
「え?」
「そんな急がんでええやん。俺暇やし久しぶりに会ったんから」
「でも…、ええよ。治も今日休みやろ?私おったらゆっくりできへんやん」
「ツムやったら気不味いん分かるけど俺部外者やで?そんな避けられてたら淋しいやん」
「やっぱ知ってるんや」
「ツムから聞いた」
「……そっか」
「ここでおってもなんやし上がりや」