第1章 ❤︎ 指先に触れたもの 及川徹
「いちか先輩?」
「…なに?」
「俺の指、好き?」
「………うん」
「じゃあ、咥えてみて?」
先輩の唇に右手の指で触れると素直に口を開いた。ぬるっとした舌先が迎えて人差し指と中指が埋まる。直に感じる息遣いはよりリアルでたまらない。
「上手。先輩の咥えてる表情、すごく可愛い…」
「…っ」
「先輩の口の中、温かくて俺の指も溶けちゃうかも」
「ん……」
「可愛い。……ねぇ、知ってた?指も口もちゃんとした性感帯なんだよ。…気持ちいい?」
「……ん、気持ちいい」
「よかった。俺もね、気持ちいい…。ずっと我慢してたからこれだけでイッちゃいそう。こんなの初めてなんだけど、それって相手が先輩だからだよね」
開きっぱなしの唇からは透明な雫が垂れる。ああ勿体ないってすかさず舌で舐めとって汗ばんだ二人の体を密着させるだけで挿れてもないのにセックスの最中みたいな気分だった。
「…んんっ」
「ちゃんと体も全部満たしてあげるから、大丈夫」
Tシャツをたくし上げ、自由な左手は下着の隙間から胸の突起を探る。薄桃色の突起はぷっくりと主張するように勃っている。きゅっと摘まむと体は小刻みに震えて強弱に合わせてぴくんと跳ねる。
「んっ、ぁ、…ら、め……」
「これ、気持ちいい?」
「だ、っ。イっ……ちゃい、…そう」
「いいよ、ねぇ、イって?俺の指咥えながら…」
「ふ、ぁ…っ、ぁ、…、ぁ!」
一際高い声と先輩の体が震えたと同時に人差し指の先に鋭い痛みが走る。イッたタイミングで先輩の八重歯が指先を傷つけて僅かに出血していた。
「及川君…」
「大丈夫。ゆっくり息して?」
「私…、」
「いいから。気にしないで」
欲のままに交われば先輩をただ傷つけるだけだからこれは僅かに残る理性で選んだギリギリの選択。望みがあってもなくても甘く記憶だけを残して俺って存在を刻み込みたかった。
「俺を選んで…」
先輩にちゃんと聞こえてるかは分からない。でも今俺ができることは腕の中の先輩を精一杯抱き締めることだけだった。