第1章 ❤︎ 指先に触れたもの 及川徹
「ほんと?」
「ほんと。ずっと見てたもん」
「ねぇ、今、そういうこと言うの狡くない?」
「それを言うなら意気消沈してる私に甘い言葉囁く及川君の方がもっと狡いよ」
「だって確信犯なんだもん」
「悪い後輩だね」
「だってずっと好きだったもん。いちか先輩の事」
「ありがとう」
「海外ドラマじゃ、今みたいな雰囲気なら絶対キスしてるよね」
「でも、ここは日本だから」
「キス、していい?」
「そんなこと、海外ドラマじゃいちいち聞かないんじゃない?」
「それもそうだね…」
ふっと緩んだ口元に唇を押し当ててみる。いいのかなって触れる瞬間まで戸惑った下手くそなキスも先輩は上手く受け止めてくれる。
「……んっ、…及川君」
残るカフェラテの味が俺の唇に移って一度触れてしまえばもう止められなくて口内を犯すように舌を這わせた。薄暗くて静かな部屋にリップ音と時々漏れる二人の吐息が辛い現実を切り離してタブーさえどうでも良くなる。
時間を忘れて求め合うような深くなる口付け。キスの余韻に互いに崩れかかった理性でなんとか正気を保ちながら、一度唇を離して互いを見つめ合う。さっきまでとは違った艶っぽい表情にたまらず先輩の胸元へと顔を寄せ谷間の中心を吸い上げた。
「…待って。…それ以上は」
「それは分かってる…。でも先輩のそんなもの欲しそうな表情、初めて見た」
「……そんなつもりじゃ」
「今すぐ俺のものにしちゃいたいくらいだよ」
「それは、まだ…」
「もちろん今じゃない。ちゃんと俺の事好きになってからでいい。でも今はもう少しだけ先輩に触れてたいい。…いい?」
「うん。私も……」
「私も…何?」
「私も、こうしてたい…」
真っ直ぐに俺を見つめた後、先輩からのキスが俺の唇を奪った。嬉しいとか好きとかそういう感情も全部溢れてただキスに酔いしれる。さっきとは違って俺の唇を優しく食むような控えめなキスは先輩らしくてそれさえ愛しい。