第45章 ❤︎ もしも岩ちゃんがスイミングインストラクターだったら…
迎えた金曜日の夜、一君が乗った新幹線は最終便だった。明日から三連休だからだろうか深夜でも駅は賑やかだった。人混みの中、一君の姿を見つけた時の安心感はなんとも言えない瞬間だ。
「悪い。遅くなった…」
「全然。むしろ一君こそ仕事終わりにこっちまで来てもらって…、疲れてない?」
「いや大丈夫。新幹線の中で少し寝たし」
「そうなの?ご飯は?」
「駅弁で食った」
「そっか、それならよかった」
「こんな時間に夕御飯付き合わせるといちかが太るからな」
「えー、酷い。あれから太ってないじゃん」
「知ってるよ。今もちゃんと頑張ってんだなってさっき会って思った」
「ったく、私の扱い上手いよね、ほんと…」
別に拗ねてるわけじゃないけどタイミングを見計らって機嫌をとるようにさりげなく手を握る。寄り添うように重なった影に思わず笑みがこぼれる。
「けど実際いちかは頑張ってると思う…。そこだけは俺が一番よく知ってるから」
「……うん」
優しい言葉が触れる。にやけたまんまの顔は上げることができなくて、一君がいてくれるだけでいい、そんな気さえする。
「…このまますぐ実家に向かおっか?もうみんな寝ちゃってるけど…」
「そうだな。店も閉まってるしもう遅いし。明日色々連れていってくれるんだろ?」
「そのつもり。この一週間の間にプランたてたから」
「じゃ今日は早めに帰って休ませてもらうわ」
「うん。そうしよう」
街の灯りがキラキラしている。イルミネーションを見ているわけでもないのに気持ちは浮かれっぱなしだ。しっかり握りしめられた手から伝わる温もりが嬉しかった。