第45章 ❤︎ もしも岩ちゃんがスイミングインストラクターだったら…
それからの半年間は幸せすぎて死んじゃうんじゃないかってくらいに満たされた毎日だった。一君(一さんから一君へ昇格)の指導のおかげでダイエットにも成功したし、キスだってそれ以上のことにだって慣れた。
迫る別れの期限を前にお互いを知れば知るほど惹かれ合っていくのが切なくて地元に戻ることを何度も躊躇ったのが今では懐かしい。
忙しく毎日を過ごしているうちにこっちに戻って三年が経ったけど、そろそろ一君の元に帰りたいと思う自分もいる。
「休みとれたの?」
「ああ。だから連休はそっちに行こうかと思ってる」
久しぶりの電話で聞こえてくる一君の声は変わらない。
「じゃあうちに泊まってってよ」
「そうだな。いちかの家族がいいならそうさせてもらうわ」
「うちはいつもで大歓迎だよ。お母さんなんて一君のファンみたいなもんだし」
「ファンって…」
「家を拠点にしてさ、あっちこっち遊びに出掛けようよ」
「そうだね。ここのところは忙しくてなかなか会えなかったからね」
「仕方ねぇだろ?お互い仕事してんだし」
遠距離にだって慣れた…と言えば嘘じゃないけど、声を聞けば会いたくなるし電話を切る瞬間はいつも切なく感じる。
「会えるまで一週間か…。それまでに仕事片付けて万全の準備しとくから」
「うん…、私も。楽しみにしてる」
だけど次の約束があるってだけで心強く感じる。仕事だってバリバリ熟せるパワーが湧いてくる。こんな毎日だって私には幸せなんだ。