第45章 ❤︎ もしも岩ちゃんがスイミングインストラクターだったら…
「あ、そうだ。お前、今週の日曜日って空いてる?」
「日曜…?空いてますけど?」
「さっきさ、ここに通ってる人から映画の無料券貰ったんだけど…。俺も休みだしよかったら一緒に行くか?」
「ええ!?」
「なんでそんな驚くんだよ」
「むしろいいんですか!?私とで」
「こんなんで喜びそうなのいちかくらいだし」
「夢ですかこれ」
「心配すんな、現実だ」
「行きます!絶対行きます!」
「じゃあ日曜日に駅前の噴水のとこで10時に待ち合わせでいいか?」
「はい!なんなら朝から待機してますから」
「なんでだよ。けど調子悪かったら絶対無理すんなよ」
「だったら日曜まで寝て過ごします」
「太るぞ?」
「それはやだ」
「じゃあとりあえず体調だけは気をつけとけな」
「はい…っ」
お母さんですらこんなに気にかけてくれないのに。優しさのお手本みたいなお言葉…、たまんないよ。
「なんだかんだ言ってお前といるの面白いし俺も楽しみにしてるから。じゃまたな」
「はい!ありがとうございます!」
元気に答えるけど微笑む一さんの笑顔が脳裏に張り付いて離れない。会えば会うほど好きになっていくような気がする。指導に戻る背中を見送った後も寂しさと愛おしさがこみ上げてきてこの瞬間はいつも切ない。
それから日曜日までの間は一さんには会えなかったけどデートのことを考えれば寂しさだって楽しみに変わっていく。服は何を着ようかとかどの映画にしようか隣で笑う一さんをイメージしながら一日一日を過ごしていた。
だけどこのタイミングで一つだけ厄介なことが起きた。それは丁度一年前に別れた元彼からの連絡。知らない間に新しい彼女を作って一方的に別れを切り出されて去っていくような勝手な人だった。今回も彼女と別れたとかで“会いたい”とメッセージが入っていた。
もちろん会う気なんてない。元彼にされた酷い仕打ちは今もトラウマだし元彼とのことを思い出すだけで一気に気が沈んで黒い感情が溢れてくる。
今は一さんだけを見ていたい。
お願いだから余計なことしないで。