第45章 ❤︎ もしも岩ちゃんがスイミングインストラクターだったら…
「岩泉さんかぁ」
口にするだけでくすぐったい。初めて話をしたし気分も良くて有頂天で適当に街をぶらついていた。誰かにときめくなんて久しぶりでこの気持ちをずっと胸に留めていたくて気がつけば三時間くらいほっつき歩いていた。
空はもう真っ暗でタイミングよくラーメン屋の提灯が目に入る。ダイエットを決意してからは敬遠していたし、ラーメンなんて高カロリーなものは一切口にしていなかった。でもこんなにいい日は迷わず寄って行こう。
「こんばんは」
いつものように馴染みのラーメン屋の扉を開ける。21時近くなのに店の中はそこそこ賑わっている。
「いちかちゃん、久しぶりだね」
「最近ダイエットして来れなかったの…。でも今日はいっぱお運動頑張ったからご褒美なの」
「そうだったの。顔見せないから心配してたのよ。そこ空いてるから座ったら?」
「ありがとうございます。ああやっぱりいい匂い」
ラーメン屋独特の油っぽさも食欲をそそってたまらない。店主のおばさんに案内されカウンター席に腰掛ける。
「…ほんとはラーメンも我慢しなきゃいけないんだけど、ここの味が好きだから止められないですよね。今日はいいこともあったし」
「それは嬉しいね。いつものでいいの?」
「うん。…それと生ビールで」
「はいよ」
いつもよりもワクワクしながら冷たいお水を一口含んだ。周りは常連のおじさん。そしてふと向かいのカウンターを見ると“お疲れ様です”と笑う岩泉さん。
「……ぁ、」
背筋がサーッと冷えていく。ダイエットの目的で始めたプールなのに、こんな時間にこんな高カロリーなものを摂取してるなんて本末転倒もいいところだ。