第43章 ❤︎ 俺はまだ本気出してないだけ 岩泉一
「んじゃ、行くぞ」
「え、どこに行くんですか?」
「……俺ん家。どうせ今日予定なんてねぇんだろ?」
「ない、ですけど…。え、なんか怖い」
「心配すんな。取って食ったりしねぇよ」
「ですよね。……先輩、優しいですもんね」
「おい、今なんつった?」
「え?」
この流れで〝優しい〟ってワードがいけなかったのか急に歩みを止めた先輩。突然の事に不思議に顔を上げた私に〝もう許さねぇ。怒った…〟と見下ろし溜息をつく先輩。
「お前馬鹿だな。自分で煽ってんの分かってる?」
「煽ってなんかない。ほんとの事だし…って、あ」
「…お前及川並みに学習能力ねぇぞ?この後、責任持ってちゃんと俺の機嫌とれよ?」
「え、なんで?ねぇ、どうしたらいいの!?」
「さぁどうしてやろうかな。今回はお前が悪いし何されても知らねぇからな?」
怒ってるって割には何かを企んでいるような含み笑いを浮かべ〝行くぞ〟と私の手を取った。これなら素直に怒られた方がまだマシだけどこの後先発の家で確定してる事を思えば急にドキドキし始めて心臓は早まった。口は災いの元、でも先輩の横顔にすらときめいてこの先の良からぬ出来事にさえ期待する自分がいる。
それから手を引かれ足早に向かった先は先輩の家。しんと静まり返ったリビングを抜け階段を上がればもうすっかり見慣れてしまった部屋。着くなり強引に腕の中へと引き寄せれられて顔を上げた途端に一方的なキスが待っていた。
「…っ、う、ん…」
舌を舐め上げるようなねっとりとしたキス。深いキスだってまだ慣れたとは言えないのに強引にされたままじゃ上手く噛み合わない。やっと離してくれたかと思うと先輩はいつになく真剣な眼差しで見つめた。
「……あの、先輩?」
「……さっきの話だけどよ。俺の何がどう物足りないんだ?」
「だから物足りないとかじゃなくて」
「俺にはそう聞こえた。優しすぎるって…、それってつまりは俺とヤるのが物足りねぇってことだろ?」