第42章 ❤︎ ラブコール 岩泉一
東館までは歩いても二分くらい。鍵は開いてたし玄関から入り、できるだけ音を立てずに警戒しながらいちかの部屋まで辿り着く。ここに来る途中に“部屋は開いてるから”なんてなんでここまで危機感ねぇんだ…あいつは…。
“着いたけど?ったく鍵くらいかけとけ”
“ほんと!?ありがとー。鍵忘れちゃってて次から気をつけるね”
“当たり前だ。…で、どの鞄だ?”
“布団の上にア○ィダスの鞄あるでしょ?中にね、そのまんまの下着が入ってんだけどその中から適当に選んで持ってきて欲しいの”
下着?選ぶ?言ってる事の意味が分からなかったけど鞄を開いてその言葉を理解した。
“なんでそのまんまの下着が入ってんだよ。普通袋とかに入れとくだろ?”
“だから言ったじゃない。昨日コインランドリーで乾燥させて整理するのも面倒だったらそのまま入れちゃったの…”
“ズボラだな…。…んでどれ持ってけばいいんだ?”
“一の好きなので良いよ?”
“は?”
“合宿のために新しい下着沢山買ったの。だから一好みの下着でいいよ”
確かに見たことねぇやつばっかだ……、こんなレースのやつも…ってそんな事考えてる場合じゃない。
“………適当に持ってくから”
“上下セットのやつでお願いね”
“……はぁ、なんで俺が…”
“及川君に頼めば良かった?”
“持ってくから。そこで待ってろ”
“はーい”
こっちの気も知らないで電話の向こうでは嬉しそうな声が聞こえる。どの下着が似合うか…なんてつい余計な事を考えて迷いそうになるのをぐっと堪えて、一番上にあった白の上下セットを選んで部屋を出た。
しーんと静まる廊下の先に浴室がある。誰も居ないことを再確認してからドアをノックする。少ししてドアが開かれるといちかの顔がチラっと覗く。バスタオル姿が視界に入り、視線がつい胸元に向かってしまいそうになる。
「持ってきてくれた?」
「…適当に」
隙間から下着を渡しドアを閉めようとすると“待って”と声。
「何だよ」
「すぐ着替えるから、少しだけ待ってて」
「さすがにそれはマズいだろ?」
「誰も来ないから。お風呂入る前に監督に内線でもう寝ますって言ってるの。だから大丈夫だから」
久々にあった彼女。それも上目遣いで懇願するように見つめるいちかに逆らう事も出来ず、彼女が着替えるまで浴室のドアの前で落ち着かない時間を過ごした。
