第42章 ❤︎ ラブコール 岩泉一
今日で合宿も五日目となった。
蒸し暑い中、朝から夕方までみっちりと練習をこなし周りを見ればすでに寝ている奴、テレビを観たりスマホを弄っている奴ばかりで部屋は案外静かだった。初日こそお祭り騒ぎで何回俺が怒鳴った事か…、さすがに初日のようにはしゃいでいる奴はいねぇな…なんてスマホを起動させると丁度彼女からのメッセージが届く。
“今、電話できる?”
あいつも今は確か宿舎だろ?なんて不振に思いつつ、一人部屋を離れてから通話ボタンを押した。
“どした?こんな時間に”
“あのね、お願いがあるんだけどいいかな?”
“なんだよ
“今お風呂から出たんだけど、……下着を部屋に忘れちゃって”
“…は?”
“疲れてるところ悪いんだけど、私の部屋に行って取ってきてくれないかな?”
“いや…、んなこと言われても、無理だろ”
“そこを何とかお願いできないかな…。一は彼氏だし下着見られても平気だもん”
“それはそうだけど、つか着てきたやつあんじゃね?”
“やだよ、今日汗いっぱいかいたもん…。ねぇ一、お願い!”
電話の向こうで“一にしか頼めないの”という声。
“他のマネージャーは?”
“元々泊まりが出来るのは私を含めて二人だったんだけど一人は用事があるからって帰っちゃった…。今日泊まるの私だけなの”
“つっても女子の宿舎は近寄れねぇだろ…。監督にあんだけ言われてるしな”
“監督だって男だからこの時間にはまず来ないよ。仮にバレたら私が責任持って説明するから。こんなところでいつまでも裸でいたくないの”
“裸”という言葉に思いっきり反応してしまう。合宿が始まってろくに触れる機会もなかったからある意味正直ではあるけど、仮にも今は合宿中。変な気を起こすと後々自分が辛くなる。
“取りに行ってやるから。ちゃんとバスタオル羽織っとけよ”
“ありがと。じゃあ私の部屋分かる?東館の一番奥の部屋だから。鞄の中は少し散らかってるけど部屋に着いたらまた連絡して?”
“分かったよ。ちょっと待ってろ”
“待ってる。一、大好き”
ったく及川に似て調子いい奴。とはいえ一番うるさい及川も今は風呂に行ってるようである意味チャンス。他の部員にも気付かれないようにこっそりと宿舎から抜け出した。