第41章 恋する細胞 岩泉一
もうすぐ予鈴が鳴る。そろそろ教室に戻らなきゃいけない。体を起こしても立ち上がる気にもならない。いっそサボってしまおうかなんて思ったけど、また心配をかけてもいけないし…。膝を立てて体を丸めて、ひとつ大きなため息をついた。
「なぁに、一人で泣いてんだよ」
突然、息を切らせた大きな体が後ろから抱き締めるように私を包む。ハッとして後ろを振り返って見ると肩に顔を埋める恋人の姿。
「い、わ……」
「静かにしろって。誰かに見られてもいいのか?」
「……それは、困る」
「なんで泣いてんの?」
「泣いてないけど?」
「泣いてるように見えた」
「ごめん…、少しぼーっとしてた」
自分が情けなくて泣きそうだった、なんて言えない。
「俺のせいか?」
「そんなんじゃないよ」
「お前さ、最近無理してねぇか?」
その言葉にきゅっと胸が痛む。堰を切ったように涙が溢れそうになるのを必死で堪えながら首を横に振る。
「俺の前でくらい無理すんな」
「……うん」
“ごめん”の言葉すら震えて出なかった。私をいつも気にかけてくれてるのに上手く返すことも出来ない自分が情けない。
「お前がなんで泣いてるのか俺には分かんねぇけど、俺より好きな奴が出来たとか別れるとかだと許さねぇから…」
「そんなの…、あるわけないよ」
きつく抱き締められた腕の中で呟く。むしろ前よりもずっと好きで岩泉君のことしか考えられなくて困ってるのに他の人を見る余裕なんてない。