
第41章 恋する細胞 岩泉一

予鈴が鳴ると籠を倉庫へと戻し脱いだシャツを羽織りボタンを止めないまま“教室戻んぞ”と先に体育館を出る。何事もなかったような態度に私はしばらく呆然としてしまって“行くぞ”という声に慌てて後を追いかけた。
「昔みたいに髪の毛ひとつにまとめねぇの?」
「なんでそんなことまで覚えてるの?」
「家に写真あったから」
「あ、そっか…」
人見知りで自分から喋ろうとしなかった私はいつも暗い表情をしていて、心配した母が少しでも明るい表情をみせるようにといつもお団子頭されていた。
「一応声かける前に確認しとこうと思って昨日写真探したんだよ。人違いだったら失礼だろ」
「でも私みたいな地味な顔、よく覚えてたね」
私の為にわざわざ探してくれたの?って勘違いしそうになって、また可愛くない返答をしていまう。
「地味か?」
「地味だと思う」
「他の女子と変わらんねぇだろ?」
「岩泉君視力悪い?」
「2.0」
「なら問題ないね」
「あんま自分を卑下すんなよ。いつまでたっても友達できねぇぞ」
「それは分かってるんだけどなぁ。話かけてもすごく気を遣ってくれてるようで悪いなって思うの」
「ああ?なんだよ、それ。んなこといちいち考えるか?」
「ごめん…。人の視線とかそういうの気にしちゃって。今までも転校が多くて癖になってるのかな」
「ああ、そうか」
「正直、一人でもいいかなって思ってる自分もいる。一人の方が楽なときもあるから」
「お前バレーやってたくせにそんな考えでいいのか?」
「バレー関係ある?」
「そもそも個人競技じゃねぇだろ?」
「そうだけど
「ま、ダメな時は俺がダチ一号にでもなってやるから元気出せ」
「……それはそれで、………嬉しくない」
「ああ?」
「いや、ごめん。そういう意味じゃなくて。……気を遣って友だちになってくれるなら別にいいよって事。上手く言えないけど迷惑はかけたくないので」
「お前なぁ、んな考えだったらいつまでたっても一人だぞ?」
「……ですよね」
「友だちなんて肩書き、とりあえず一旦忘れろ。一人がいいならそれでいいけど、俺は、なんつーか、そうさせたくねぇから…。だから放課後は絶対付き合えよ」
返事に戸惑ってる間に“じゃあ後でな”と言い残して教室へ入っていった。もうすぐ本鈴が鳴るから他の生徒は急ぎ足で教室に向かっていくけど、私は一人、岩泉君の言葉を頭の中でリピートしていた。
