第41章 恋する細胞 岩泉一
「もう弁当食ったのか?」
「いえ、トイレの近くでは食べれないので場所を移動しようと……へ?」
突然、後ろからの声。振り返って見た姿に私の記憶が蘇る。
あれは……、あおのしろ幼稚園あおば組の岩泉一君。
大人っぽくなったとはいえ面影の残るその顔。今でもはっきりと思い出せる。
「岩泉君…」
「俺の事知ってんだ」
「同じクラスだもん
「けど喋ったことねぇだろ?」
「そうだね…。でも一応クラスの人の名前とか顔くらいは覚えてるよ」
「そっか。お前が誰かと喋ってんのとか見たことなかったから」
それはね、悲しいけど一番私が分かってるよ。
「お前さ…、あおのしろ幼稚園にいなかったか?」
「…覚えてるの?」
「ぜんっぜん喋んなくて……、なんか地味な奴だった印象だけど」
「正解」
悪気のない岩泉君の言葉。ぐさっ…ぐさ…っとナイフが心に刺さったような気がしたけど、でも覚えてくれてるだけいい。全然いい!もう何でもいい!
「そうだよ。今も地味なのは変わらないけどあの頃より少しは話は出来るようになった…と思う」
「だよなぁ!及川に聞いてもそんな子いたっけなんて言われるしよ。俺の勘違いかと思ってた」
「年少の一年だけしかいなかったから。むしろよく覚えてたね」
「クラスに10人くらいしかいなかっただろ?」
「確かにそうだったかもしれない…。私はいつもすみっこにいたから先生に真ん中に来なさいって言われるのがすごく嫌だったんだよね。当時は…」
「じゃあ今は?」
「そこはね…、残念ながら変わってないよ」
「なんだよ、それ。…つーかさ、お前、友だちまだいねぇの?転校してきてもう一ヶ月経つだろ?」
「……そうなんだけどね」
他の皆は私と違ってキラキラとした“映える”何かをいつも探してて私みたいにパッとしない属性の人間なんてきっと見向きもしないんだろうね。でも分かる。私だって逆の立場なら同じようにしてたと思うから。