第40章 ❤︎ 電車の中のハプニング 鎌先靖志
向かったのは駅裏の歓楽街。昼間ということもあり静まりかえっていて人通りも多くなかった。俺は迷うことなく手を引いてその一角にあるホテルへ向かった。
連れの何人かはホテル行ったって奴もいたけど俺自身はこんな場所にくるのは初めてだった。だけど早くいちかから他の男を消し去りたかった。部屋なんてどこでも良くて指定された部屋へと足早に移動した。誰もいない廊下、エレベーター。無言のままのふたり。その間にもいろいろな感情がひしめき合って、俺はそんな思いをぶつけるように部屋に入るとすぐにいちかを抱きしめた。
「ごめんな。…急にこんなとこ連れてきて」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃねぇだろ?……ごめんな」
「先輩、普段私には優しいから。先輩が本気でキレてたの、少しだけ怖かったんです。相手が悪いけどもし殴ったりして問題になったりしたら先輩どうなっちゃうんだろうって」
「ごめん…。あん時、頭に血が昇って俺もどうしていいか分かんなくて」
「私が我慢できたらよかったのに。…でも怖くて」
「馬鹿。俺が一緒にいんのに我慢なんてしなくていいんだよ。俺がいなかったらずっと一人で我慢してたのかよ」
「……だって、怖くて動けなかったんだもん」
微かに震えた声にいちかを見つめるとまた目が赤く充血していた。こんな表情が見たかったわけじゃないのにってまた悔しさに胸が締め付けられた。
「ごめんな」
「先輩は悪くないです」
「どこ触られた?」
「でも…」
「俺しかいねぇから、全部言え」
「……お尻を、撫でられました」
「それだけか?」
「はい。先輩がすぐに気付いてくれたので」
正直それだけで済んだことにホッとしたけどそれでも他の男がいちかに触れた事実は変わらない。あの状況に浮かれてた自分が情けない。
「私が悪いんです。いつもボーっとしてるから。先輩に迷惑かかて本当にごめんなさい。でも先輩がいてくれて、本当によかった…」
そう言って抱きしめ返してくれた小さな腕に俺は胸が苦しかった。
「風呂行くぞ」
「お風呂ですか?一緒に?」
「綺麗にしねぇとな…」