第36章 魔法にかけられて 宮治
夢の時間はあっという間に終わってしまった。けど予約してあったホテルは夢の世界を継続させてくれる。
部屋から見える夜景はパーク内の灯りがキラキラ輝いて、最後に見たパレードの余韻を残す。窓際でうっとりと思い出話に花を咲かせ、満足げな横顔。
「まさか、予約したホテルがオフィシャルやなんて…。ようとれたな…」
パークから一番近いと書いていたホテルには、いちかの言う通り夢の国のキャラクターがあちこちにあしらわれている。
「知らんかってん。えらい高いなとは思ってたけどまぁええかって」
「せめてホテルは私が決めたら良かった。ああ…来月のカードの請求怖…」
「別に払えるんやし問題ないやん。頑張って働かないかんだけで…」
「そうなんやけどさ…。あーあ、今日来たばっかであれやけど明後日からはプリンセスいちかも、勤続年数6年目、(有)稲荷崎商事経理部のしがないOLに戻るんやね…。切な…」
「しゃーないやん、夢なんやから」
「ほんと夢の国やったよね。チケット取ってなかったけど並んでるだけでワクワクしてたし、一歩足踏み入れた時の感動…」
「涙ぐんでたもんな。な、来て良かったやろ?」
「そやね。…でも無理しても来て良かった。今回散財したけどまた来れるようお金貯めなね」
「また来る?」
「絶対来たい。人が多くても居るだけでこんなに楽しいとは思わんかったし。お土産も全部可愛かったもん」
「ほな、そのための仕事は頑張らんとな?」
「うん…」
週末に見た修羅みたいな顔から今はプリンセスさながらに穏やかさを取り戻してる。本来はあんまり怒るようなタイプでもないしその優しさに甘えてたんはいつも俺の方。