第36章 魔法にかけられて 宮治
旅行当日は覚悟していたとは言えバタバタしたまま東京へと旅立つ。機内ではコンビニに売ってあったガイドブックを広げながらアレ乗りたいコレ買いたいと思いを膨らませて嬉しそうな表情に俺も満足していた。
けど休日ということもあって着いた時のは昼前でチケット売り場も長蛇の列。入るまでに時間がかかるな…と不安に駆られるけど、聞こえてくる音楽、周りの雰囲気はいつもの日常とはすでに違っている。
「ここだけでテンション上がってきた」
「こんなに並んでんのに?覚悟しとったとはいえやっぱチケット買うんにも並ぶわな」
「ええやん、別に。入場制限はかかってないみたいやし入ったらこっちのもんやって。明日はホテル早めに出て開園前に並んだらええやん」
「ほな明日はそうしようか。…でもこういうとき前向きでええわぁ」
「だって折角連れてきてもらってるのに文句なんて言えんよ。アトラクション乗れんでも雰囲気だけで楽しめるやん」
こんだけ人がおってもいちかの嬉しそうな表情見てたら一緒にこの場におるだけで楽しいかもな…。つーかいちかが満足してくれたら俺はそれで十分なんやけどな。
「ほんまに夢の国なんやね…。人が多いのは慣れてるけどこの乙女チックな雰囲気、堪らんのやけど」
「せやなぁー、土産は買うんにも並ぶんやて。本に書いとったわ」
「可愛いグッズばっかりやったもんね」
「何か欲しいもんあるん?」
「私もぬいぐるみとか欲しいかな。ここじゃぬいぐるみ抱っこしたままおっても怪しまれんし。…優しい世界やで、ここは」
「ほな好きなんあったら買うてやるわ」
「ほんまに?」
「ええで。俺はここで買うもんはないやろうし」
「治も買えばええのに。あ、一緒に暮らすんやったら日用品のグッズも買いたいね」
「茶碗とか?」
「お揃いでね。記念になるし」
「ええよ、全部いちかに任せるわ」
「ありがとう。今日と明日は楽しもうね」
「…ん、了解」
こんな風にデートっていうデートも外で手を繋いで歩くのも久しぶりやった。でもここでは年齢に関係なくカップルは当たり前のように寄り添っている。
キャラクターのポップコーンケースをぶら下げて、何乗っても何見ても子どもみたいにはしゃぐいちかの姿は誰よりも可愛くて眩しかった。