第36章 魔法にかけられて 宮治
「ほんとに行くの?」
眠るまでの間いちかは何度も明日のことを聞いてきた。今も狭いベッドの中、俺の腕に収まりながらキラキラした目を向ける。
「もうチケット取ったって。寝坊せん限りは明日の今頃は夢の中や」
「まだ信じられんのやけど」
「ほな向こう着いてから信じたらええやん。はよ寝んと寝坊するでほんまに」
「でも明日明後日に着る服変やないかな?せっかく夢の国に行くんやったら可愛い格好で行きたいし。でも頑張りすぎて浮いてても嫌やしな…」
「んなもん気にする奴やおらんやろ。それに明日着ていく服は俺が前に選んで一回も着てくれん買った服やん?」
「だって真っ白いワンピースなんて着ていく機会ないやろ?汚れたら嫌やし」
「だから明日着たらええやん。あの、ほらなんて言うてたかな。ブッフィーとかいう熊の耳のカチューシャ、向こうで買うたるから着けたら似合うんちゃう?」
「それは若い子だけやって」
「夢の国なんやから年齢不詳、歳もとらん設定でええやん」
「じゃあ治も着けてくれる?」
「ええよ、別に…」
「ねぇ…、治も結構楽しみにしてる?」
「当たり前やん」
「えー?意外…」
「交通費だけで諭吉10人分くらいかかってるんやから元はちゃんととらなな?」
「そうやんな。こんなん滅多に出来んし私も明日明後日は思い切り楽しむわ」
「そういう前向きなとこ、好きやで?」
思えばこうやってちゃんと“好き”って言葉にするようになったんは多分いちかと付き合うようになってから…。一緒におって居心地はいいし、誰よりも俺の事を大切に想ってくれてるのがちゃんと伝わってくる。
「治、好き…」
「知っとる。俺にベタ惚れやもんなぁ、いちかちゃんは」
「だってこうやって甘えられるの治しかおらんし」
「俺以外におられたら困るし」
「せやね」
「明日はプリンセスになるんやろ?はよ寝ねんとお肌がボロボロのプリンセスになんで?」
「えー?それは嫌や」
「ほなもう寝な」
「…うん」
「おやすみ」
「おやすみ、治」
ったく、“寝れるかなぁ”って最後まで言いよったのに結局は俺より先に寝てしもてるし…。けど半開きになってる目もちょっと間抜けな寝顔も見てて飽きんし一番可愛い。
普段はそんなん思わんのに東の夢の国に行くって決まった瞬間魔法にかかったんやろか。思考回路がやたらロマンチックに出来上がっていた。
