第36章 魔法にかけられて 宮治
「男。しかも年上。ちょっと禿げてる。なんなら禿げてる。強いて言うなら禿げてる」
「禿げ禿げ言わんとってあげて。禿げてる事は悪くないから」
「次今度同じような事があったらあの頭シェイクシェイクして脳みそストローで吸うたるわ」
「怖…」
「治が来るまでに怒りを収めとこうと思ってたんやけどごめんな?無理やった」
いつもは疲れてても元気やのに、珍しく疲れ切った横顔が物語ってる。
「頑張ったんやな」
「何とかね…。でも、この土日で気持ち立て直さんとね」
無理して笑おうとするんがいじらしい。抱き寄せて頭を撫でると猫みたいに顔をすり寄せる。
ちゅーか同じ事されたら俺でもキレるわ。何俺の女に迷惑かけてんねんシバいたろか?なんて怒りも込み上げてくる。次同じ事しようもんなら、俺が代わりにシェイクシェイクするでほんまに…。
「それはそうとこの資料の山は何なん?」
「ああー…、これは今日中に終わらす予定やったやつ。帰って必死こいて仕上げてん。…ごめんな、今片付けるから」
「疲れてるんなら急がんでええで?」
「でも治の顔見たらちょっと元気出たし。仕事も終わったからここ片付けてお茶でも飲もう」
「せやな」
普段は滅多に愚痴も言わん愚痴も言うて、こんな風に弱い部分を見せてくれるのは案外嬉しかったりもする。
頑張り屋さんはこの土日は思いっきり甘やかしたろうって思う。
一人用のクッションソファーに腰かけて膝の上にいちかを乗せる。こうやってテレビを観るのが俺は一番好きな時間。
「ああー…癒やされる」
「ほんま?」
「うん…、だって一週間くらい会えんかったやん?やっぱり会えんと寂しいしな」
「俺も」
「夜一人で寝るときとか一緒におったらええのになぁって人恋しくなる」
「ほなそろそろ同棲する?」
「それもええよね。お金も節約出来るし。でも住む場所どうするん?」
「俺がこっちに来てもええで?こっちの方が部屋広いし」
「けど会社遠くなるやん」
「少し早く起きたらええだけやん。別に気にならんし」
「そう?なら仕事が落ち着いてる時にでも引っ越してくる?私はいつでもええよ」
“ええよ”と振り向いて俺に向ける笑顔。堪らず唇にキスを落としていちかの体を抱き締めた。