第33章 ❤︎ コーヒーの香りと君の寝顔 東峰旭
しばらく彼女を眺めた後、ベッドで眠るいちかを残して俺は台所に移動した。多忙な二人が唯一一緒に過ごせる休日。“旭の煎れたコーヒーは美味しいね”と笑う彼女が見たくてこれが休日の俺の日課となっていた。
思考の軸を全て彼女に合わせれば昨夜の光景だって薄れていく。真新しい朝を色付けるように部屋中にコーヒーの香りが漂った頃、時刻はもう10時前。そろそろ起きてもいい頃だ。
「いちか。おはよう。朝だよ。もう起きたら?」
とにかく朝が苦手ないちかからはもちろん反応はない。ふぅっと一息ついてもう一度耳元で声を掛けた。
「いちか。起きようか?」
ベッドから華奢な二本の腕が伸びたかと思うとその両手は俺を捕まえるように優しく包み込む。
「やだ。……眠いもん」
「うん。知ってるよ。…でもいちかの好きなコーヒーが入ったよ?」
「牛乳とお砂糖多め?」
「もちろん」
「なら起きるぅ〜」
小さな体を抱き抱えると俺の腕の中で眠たそうに目を擦る。何十回も見たであろうその仕草だって胸をキュンとさせるくらいに可愛い。
「旭、服とって…」
「はいはい。俺のTシャツでいい?」
「うん。旭のがいい」
いつも下着だけで眠るいちかは今日も相変わらずの格好だ。俺は視線を外しながら、いちかにTシャツを渡した。
俺のブカブカのTシャツを着て、下着が見えるか見えないかのギリギリのラインから覗く白い太もも。彼シャツという言葉がいちかのためにあるのかもしれないと本気でそう思う。