第32章 君の手をとりたかった理由 黒尾鉄朗
競技が終わっても柳瀬さんの手をこのまま振りほどきたくはなかった。周りからの冷やかしも気にせずそのまま校舎裏へと連れ出す。
「あの、黒尾君?」
「このままじゃ嫌だから、ちゃんと返事聞こうと思って」
「さっきの冗談…じゃないの?」
「そりゃそう思うよな。ついこの前までなんの接点もなかったのに急にこんな事になって本気にしろって思うのが無理だよな」
「…吃驚しちゃった」
「いきなりごめんな?信じて貰えないかもだけど、好きっていうのも嘘じゃないだよな。なんか走りながらやべーすげー好きって思って…、ならこのまま告白した方が早いわって勢いで言っちゃったけど
“…え”と小さく零し、戸惑ったように視線を逸らす。返す言葉がないのか俯いたまま何も答えてくれない。
「付き合ってる奴とかいんの?」
俯いたままふるふると首を横に振る。
「なら付き合ってよ」
「でも…、私なんか黒尾君に釣り合わないよ」
「なんで?」
「だって黒尾君、クラスの人気者だし。すごくモテるのに…」
「でも、俺は柳瀬チャンが好きなんだけど」
「…でも」
「俺と釣り合わないとか思ってんだったらさ、俺が柳瀬チャンに合わせるから」
しゃがみ込んで下から覗き込む柳瀬さんを見上げる。
「こんな風にな?」
見上げるとまだ真っ赤な顔をして目は涙目。