第32章 君の手をとりたかった理由 黒尾鉄朗
「なぁーに泣いてんの?」
「びっくりしたのと…、どうしていいのか分からないのと…」
「俺は柳瀬チャンの気持ちを聞きたいんだけど」
「……釣り合わないって分かってるのに。…でも、ほんとは嬉しくて」
「あれ?俺の告白嬉しかったんだ」
「遠くから見てるだけで、片思いで十分だったのに、夢みたいで…」
マジかよ。ちょっとそんなのいつから!?全然気がつかなかったし…、いやもう、なんつーかさ、これはもうアレだよアレ。
「なぁ、キスしていい?」
「うえ!?」
「ははっ、なんつー声出してんのよ」
「だって…、そんなこといきなり言われたどうしていいのか分からないでしょう?」
「嘘、冗談だから。…でも俺たち両思いって事でOK?」
「…………うん。でも、いいの?私で」
「むしろ柳瀬チャンがいいんだけど。まだお互いよく知らないところもあるけど彼女になってくれる?」
「……うん、…彼女になりたい」
“嬉しい”と笑った顔にほんとはキスしたいけど、今は我慢して自分の両手の中に収める。
周りには当然ギャラリーもいたけど柔らかくて温かくて夢心地な時間を独り占めしていたくて、痺れを切らした担任が“そろそろ戻れよー”と冷やかされるまで柳瀬ちゃんを抱き締めていた。
今までちゃんと見てなかった分も取り戻したい。この際だから視野をぐっと狭くして柳瀬チャンだけを見つめて、もっともっと好きになりたい。
fin*