第1章 ❤︎ 指先に触れたもの 及川徹
まだ途中の記録用紙もそのままで席を立った。不安そうな表情の先輩の手を引いて窓からもドアからも一番遠い席へと連れていって、強引に俺の上に座らせて後ろから抱き締めた。
付き合ってもないのにましてやキャプテンの彼女なのにこんなことはご法度だとしてもこのチャンスを逃したらいちか先輩は手に入らないような気がして、ふんわりと香る俺のまだ知らない先輩の匂いと柔らかな感触を両腕にしっかりと収めた。
「ね、及、川君…?こんなことしていいの?」
「俺がこうしたいの。それに仮に誰か通ったとしても死角になってるからまず誰にもバレない」
「それもそうなんだけど、でも、抱き締めるってこうじゃなきゃダメなの?」
「あ、え?そっち?抱き締めるのはいいの?」
「いいも何も…。凄く恥ずかしいんだけど」
「むしろ俺は対面がいいんだけどね」
「や、無理、そんなの」
「でも慣れてるでしょ?」
「相手が及川君なんだよ?慣れてるとか、そういうの関係ない」
「体、硬いよ?ねぇ、ドキドキしてる?」
「当たり前でしょ。こんなことしててドキドキしない子なんていないよ」
「いちか先輩、その反応可愛い過ぎるから。でももっと体の力抜いて?」
「重い?」
「そうじゃない。でも今は全部俺に預けてほしい。どうしても緊張が解れないってんならキスしちゃうよ?」
「ええ!?」
「冗談。……でもしていいならしたいけど」
「私の事からかってるでしょ」
「そんなことないよ。……全部本心だもん」
先輩を抱く両腕に力を籠める。まだキャプテンに気持ちが向いてる事だって分かってるけど、それ以上に先輩がどうしようもなく欲しいって強欲さが勝つ。先輩の安らぎにもならないって分かってても好きだよって何回も伝えたいくらいだ。
「及川君、さっき好きって言ったよね」
「うん」
「本気なの?」
「本気だよ。キャプテンと付き合ってるの知ってたけど、一年の時から憧れてたしずっと好きだった」