第32章 君の手をとりたかった理由 黒尾鉄朗
そしていよいよ競技が始まる。柳瀬さんを乗せた時思っていたよりもずっと軽くて肩に触れる華奢な体に俺らしくない程ドキドキする。絶対落とさない、例え女の子でも他の奴に触れさせたくない、そんな気持ちだった。
始めは出来るだけ接触を避けながら周りに注意して進んでいく。後ろの山チャン二人も随分安定してきた。
「どうする?このまま逃げきる?」
「え?…でもそれじゃ勝てないよね」
「もし柳瀬チャンがいけるんだったら行くよ、俺」
「行く」
迷いのない返事に嬉しくなる。丁度左横では二組が組み合っていて後ろから狙えそうだった。
「柳瀬チャン、あそこのやり合ってるところの後ろから狙えるか」
「うん!やってみる」
「じゃあ右から回り込むかから山チャン二人もついてこいよ」
「わかった」
気付かれないように背後からゆっくりと近付いて“今”と合図を送る。
「ごめんなさい!」
別に謝らなくていいのにと思いながらも、柳瀬さんの頑張りで無事にはちまきをゲット。その後すぐにホイッスルが鳴り、騎馬戦では俺たちのクラスに得点が入った。クラスメイトたちが盛り上がりをみせる中で誰よりも柳瀬さんが嬉しそうだった。
柳瀬さんの嬉しそうな笑顔に俺はそれだけで満足だった。その後はあんまり話をする時間もなくバタバタとしていたけど、今どこに居るのかつい探してしまう自分もいた。