第32章 君の手をとりたかった理由 黒尾鉄朗
「おい!大丈夫か?」
倒れ込んでいた柳瀬さんに声を変えるとむくっと起き上がり、驚いたような表情を見せる。
「あれ?…黒尾君?」
「大丈夫か?派手に転んでたけど」
「…もしかして見てた?」
「悪い、偶然通りかかって…」
「恥ずかしいところ見られちゃった…。明日の体育祭に合わせて練習してたんだけど上手く出来なくて。折角メンバー考えてくれたのにこれじゃあダメだよね」
「いや…、それは…」
どう考えても俺が100%悪い。しかも落ちた左側の上腕は赤く擦りむいている。
「てか肘、擦りむいてる」
「え、嘘?」
左肘は広範囲に擦りむいた痕があって、うっすら血も滲んでいる。
「でもこのくらい全然大丈夫。気にしないで?」
「大丈夫じゃねぇだろ。保健室、行くぞ」
「でも練習終わってからにするよ。ちゃんと練習しないと本番でも転びそうだし」
「いや、このメンバーは明日までに変えとくから。今日はもう練習すんな」
「え?」
「俺が割り振りちゃんと考えなかったからだよな…。俺が怪我させたみたいで、なんかごめん」
「全然、そんなことないよ。私の運動神経が悪いだけだから」
困ったように笑ったその表情に胸が痛む。
「とりあえず保健室な」
「でも、部活は?」
「今は委員会の仕事優先」
戸惑う柳瀬さんの手を取り、保健室に向かう。左肘の傷が痛々しくてこんな事態を招いたしまった自分が情けなかった。
「先生いないね」
「勝手に消毒液借りるわ。…そこ座って」
「…うん」