第31章 ❤︎ infection... 月島蛍・黒尾鉄朗
黒尾さんから連絡がきたのはつい一ヶ月前だった。もう一度いちかに会いたいとそれだけ。それが何を意味するかを察するなんて容易な事だった。
「これ、もらい物だけど食べる?」
「なに?…飴?」
「そう。海外のお土産らしいよ」
「ありがと。じゃあ今口寂しいし一つ貰うね」
何も知らないいちかは嬉しそうに頬張りながら窓の外を眺めている。
勿論この飴も黒尾さんから送られてきたもの。中身はなんとなく予想がつくけど、東京まであと30分。久々に感じる高揚感を表に出さないように変わっていく景色を眺めていた。
新幹線から在来線への乗り換えは順調で、いちかの異変を感じたのは黒尾さんの住む最寄り駅へ着いた頃だった。
「蛍君…、なんでかな、私ちょっと身体が熱い。酔ったのかな」
一人で立っているのもやっとと言った様子で頬は紅く目は虚ろだった。黒尾さんのことだから抜かりはないと思っていたけどここまで即効性があるとは…。
「大丈夫…?どこかで休む?」
「……ごめん。ちょっと休んでもいい?すぐ治ると思うんだけど」
「僕の行きたい場所もすぐ近くだから、それまで我慢できる?」
「大丈夫…、でも少し寄りかかっててもいい?」
「いいよ」
腰に手をまわして少し触れただけでいちかの体がビクンと跳ねる。行為中に見せるような艶めいた表情に思わず唾をのむ。
「大丈夫?」
「……ん、へい、き」
「もうすぐのはずだから頑張って?」
スマホのアプリが示す場所まではもうあとわずかな距離。いちかの体をしっかりと支えながらふつふつと湧き上がる欲望をぐっと抑える。これからどんな表情を見せてくれるのか…そう考えただけでもゾクゾクした快感を感じていた。