第30章 ❤︎ 恋に落ちる条件 松川一静
その日の放課後…。
部活の休憩中、事情を知ったであろう及川が“ちょっといい?”と呼び出す。人気のない部室裏、及川の声が響く。
「まっつん、ごめん!」
「何、急に…?」
「あのさ…。ごめん。俺全然知らなくて…。岩ちゃんからいちかのこと聞いたんだけど…、色々大変だったんだって?」
「まぁな」
「それで…、大丈夫だったの?」
「………及川が避妊失敗したのかと思った」
「そんなはずはなかったんだけどさ…。でも実際は大丈夫だったって聞いたんだけどそれ本当?」
「そう、柳瀬の勘違い。でも学校中に変な噂が流れたからそっちの方が大変だったけど」
「まっつん、ほんっっとにごめん!……先に俺に相談してくれたらよかったのに」
「お前が振ったんだろ?柳瀬の性格からしてそんなの言える訳ないし」
「そう、だよね…。本当に迷惑かけてごめん」
「でも避妊はちゃんとしてたって言ってたし、俺は及川を責める気はないから。とりあえず柳瀬本人にちゃんと謝って、他で変な噂流れてたら訂正しといて」
「うん。それは…、ちゃんとする。岩ちゃん達にも協力してもらうし」
「んじゃ、これ以上はいいから…。事情知ったら俺の代わりに岩がブン殴るだろうし」
「いや、もう殴られたんだけどね…」
「さすが仕事が早いな。…あ、あとさ。柳瀬はもう俺の彼女だから気安くいちかって呼ばないでね、キャプテン」
「え?……へ?いつの間に」
「柳瀬の事、実はずっと狙ってたから、俺…」
「そう、だったんだ…」
「そう」
「ごめん。知らなかった…」
「後で後悔しても遅いから。……もう返す気もないし邪魔はしないでね、キャプテン」
唖然とする及川を残してそれだけ告げて練習へと戻る。柳瀬の名前で届くメールはくだらない内容でも俺のテンションを上げるには十分で駆け足の速度をあげる。
元彼が誰だろうと関係ない。振り向いた彼女を両腕で掴まえたままずっと離さないから…。
Fin.