第30章 ❤︎ 恋に落ちる条件 松川一静
それから数日間は俺も柳瀬も普段通りに過ごしていた。以前と違うのは互いに距離が縮まってよく話すようになった事だ。柳瀬の気持ちに整理がつくまでは待つつもりだったしクラスメイトから一歩踏み出したこの関係も悪くはない。
ただひとつ、ある問題が浮上する。先日俺と柳瀬がドラックストアで妊娠検査薬を買っていたというのを目撃されていたらしい。しかも二人がドラッグストアから出てくるところも写真に撮られていたようで画像付きでクラスメイトたちにメッセージが回り変な噂が立ち始めていた。
勿論妊娠は事実ではないし、そもそも俺たちは付き合ってもいない。俺に直接真相を確かめてくるような奴はいなかったけど、柳瀬に対してはそうでもないらしくいつもよりも表情は険しく元気もない様子だった。
「柳瀬!」
「…あ、松川」
「今、いい?」
「うん。大丈夫。…私もちょうど話したかったし」
「なら廊下に出よう。今は他の生徒もあんまいないしここじゃあれだから」
「うん、そうだね…」
周りのいた生徒の視線、気不味い雰囲気の中、先に口を開いたのは柳瀬だった。
「あのメール見た?」
「見た…。花から大丈夫か?って連絡きて…」
「松川、ほんとごめん!私の我儘のせいで巻き込んじゃって」
「いや、俺の事はいいから。それよりそっちこそ大丈夫?」
「大丈夫だけど、こんなの噂になるなんて思ってもなかったからめちゃめちゃ焦った」
「誰に見られてたんだろうな。俺も気付かなかった」
「多分徹の取り巻きの子達だとは思うんだけど、徹と付き合ってる時から色々あったんだよね。今回は徹からすぐに松川に乗り換えた挙句、妊娠してるとか言われてるみたいでほんと参っちゃうよね。…松川も大変だったよね。…ほんとにごめんね」
そう言いながら笑っては見せるけどどこか疲れた表情にまた無理してるんじゃないかってまた変に勘ぐってしまう。