第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大
「少し黙ってて」
「ごめん、なさい…」
いい歳なのにキス一つで体は強ばり、きゅっと目を瞑ってしまう。
初めてのキスは呆気にとられるくらい優しいもので、自然と力が抜けていく。キスするだけでテンパってたのに不思議と体は覚えていて、キスが気持ちいいものなんだって事を私はすっかり忘れていたみたい。
「そういう顔、すごくそそるんだけど…」
いつもとは違う熱い視線に釘付けになる。さっきまでキスの仕方とか心の準備だとかあんなに騒いでたのにこんなにもすんなりと受け入れられて、今はむしろ“もっと”って欲しがってしまう。
「もう一回、キスして?」
「……ん」
唇を重ねるだけでチョコレートが口の中で溶けていくように混ざり合っていく。甘味なんて感じないのに甘いキスだと体は感じて脳に伝わって欲するがまま口付ける。強ばっていた体はいつのまにか解れて花巻君の肩に手を回して密着するように体を重ねた。
静かに奏でるリップ音と時計の秒針。時間を忘れてキスを堪能して、唇が離れたときには体はすっかり火照らされていた。
「ねぇ…」
「…ん?」
「花巻君は…、したい?」
吐く息さえ熱を帯びてる。こんな事言うと“したい”って思ってるのは私の方だ。
「そりゃ、ね。…したいけど。でも無理してまではしたくない」
「いいよ、私。……なんかそういう雰囲気になったというか」
「キスだけで感じた?」
「そうなのかな…。久しぶりだから?」
「…なら、ちゃんと期待に応えないとな」
花巻君の言葉が胸の奥をキュンとさせる。この人とならいい…って今はなんの戸惑いも感じない。