
第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大

流れるような愛撫に私の上擦った声が重なる。お互いの名前を呼び合って、触れあって、私たちの間の空気は今まで感じたものよりもずっと意味深で濃厚だ。過去の恋愛はもうとっくに忘れていたのに新たに花巻君に上書きされていく。
「平気?」
「ん…、大丈夫」
「無理しなくていいから。ちゃんと自分の体は気遣って?」
「ありがと…」
首筋にかかる息遣いが心地いい。全部さらけ出して互いの手はしっかりと絡み合っている。肩越しに見えるライトの小さな光が二人の空間だけを照らしていた。恥ずかしげもなく愛撫だけですっかり蕩けてしまった私は深く絡み合っていくだけで軽い波が襲ってくる。酔った時のように目の前がクラクラして何も考えられなくない。
「ぁ、…私」
「もう少しこのままでいい?」
「…ん、でも、もう」
「いいよ?さっきから余裕ないのは分かってるから」
額に触れた優しいキスに瞼を閉じて全身で花巻君を感じて、腰がゆっくり揺れる度に目の前が歪んでゾクゾクした感覚が背中を駆け上がってく。甘い痺れに蕩けきったそこはただ甘くて、深く深く飲み込まれていった。
一人暮らしを始めてまだ一年も経っていなかった。色んな人の紹介で何人かの男性と出会ったり合コンなんかにも参加したけどピンとくる人もいなかったのに、こんな急展開の末、同じベッドで眠る人が出来るなんて誰が予想できただろう。
「ねぇ。明日になってやっぱり付き合うのやめますとか言わないでね」
「なんで、急に?」
「だって未だに実感ないもん。急展開過ぎてさ…」
「じゃあもう一回する?そしたら実感湧くんじゃない?」
「やだ、もう、無理」
「冗談。でも付き合うのやめるとか絶対にないから。俺にだって久々で念願の彼女だったし」
「ほんと?」
「及川さんに先越されたらってヒヤヒヤしてたし、折角手に入れたのに簡単に手放す訳ないだろ?」
真っ直ぐな視線にストレートな言葉、自分がちょろいのは分かってるけど嬉しくて思わず頬が緩む。
「ダメだ。もっと好きになっちゃう」
「なっちゃえばいいじゃん。俺は大歓迎」
花巻君の微笑んだ笑顔にもう耐えられない。これ以上見ちゃうと私の本体まで溶けてしまいそうで、ぎゅうっと抱き締めるフリをして顔を埋めた。
いい大人なのにちっとも冷静でいられなくて、溢れて止らないのは花巻君への想いだけ。いくら考えたってきっと好き以外にない。
