第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大
意外にも及川さんの話すのは楽しかった。本当に仕事の話メインで私の話もちゃんと聞いてくれるし、企画に対する意見も取り入れてくれていた。
ただ、少し前からなんとなく頭がクラクラするような感じがしていた。ノンアルを頼んだはずなのに…と思ってもう一度メニュー表を見れば思いっきりアルコール入りのカクテル。やけに甘いジュースだなとは思っていたけど、久々のアルコールに気がつかなかった。
「どうしたの…?大丈夫?」
「あ、はい…。ちょっと…」
目眩が酷くなる前に帰らなきゃと思っても、自分が間違えてしまったことだから今更になって言えない。
「すいません。…母からメールが着てて今日は実家に帰る日でした」
「そうなの?それじゃ帰った方がいいよね。送ってくよ」
「ありがとうございます。でも駅まで母が着ちゃってるそうなので、大丈夫です」
そんなの勿論嘘だけど。でもアルコールって気付いた瞬間から一気に顔が熱くなって鼓動も早いような気がする。
「今日は仕事の話も楽しかったです。企画が上手くいくように応援してますので…。ご馳走様でした」
及川さんはまだ何か言いたそうだったけど、なんとか営業スマイルで乗り切ってフラつきそうになるのを堪えて店を出る。
心配そうにしていた及川さんには悪いけど一旦この場を離れて落ち着かなくちゃ……。