第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大
「こんなところで止めてください」
「いいじゃん。俺、好きになっちゃったかも」
「やだ、何言ってるんですか!?」
「だって今彼氏もいないんでしょ?」
「だからって、こんなの、やめてください」
「えー?どうしようかなぁ。せっかく捕まえたのに…」
「でも、誰か来たら…」
「誰もいないよ…?」
「いるんですけど?」
その声にハッとしてふとドアを見れば花巻君が手を組んで立っている。“何してんすか…?”と鋭い視線が刺さる。
「あーらら、見られちゃった」
「朝から止めてもらっていいですか?彼女、嫌がってるし」
「今はそうかもしれないけど、この先はそうじゃないかも」
「現時点での話です。セクハラの現行犯って事で上に報告しても?」
「ちょ、花巻君!?」
確かに嫌な思いはしたけどそこまでしなくても…。
「ははっ、それは困るな。俺にとっては挨拶みたいなものだったんだけどね。柳瀬さん、ごめんね?」
「……いえ」
“もうしないでください”って言葉が喉まで出かかってるけど今は下手に喋らない方がいいのかも。
「じゃあさ、このお詫びにお昼ご飯奢らせて?柳瀬さんのことが心配なら勿論二人で来てくれてもいいし」
「すみません。昼は柳瀬さんと来年の研修の事で打ち合わせがあるので」
「それって君一人じゃ出来ない事?」
「そうです」
「情けないなぁ。出来ない事をそんなはっきりと言うもんじゃないよ?逃げ癖ついちゃう」
「俺と柳瀬が担当してることなんで」
「ふーん。まぁ、それなら仕方ないか…。でも次は俺との約束優先してね。東京観光」
「あ、そのことなんですけど…」
「じゃあ歓迎会の時にねー。俺の隣は柳瀬ちゃんの為に空けておくから」
嘘ついたでしょ!と問い詰めたかったのに、逃げ足早く去ってしまう。花巻君と二人給湯室に残されて、深いため息をついた。