第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大
「へぇ、なんで?」
「こっちに慣れてないから東京観光してくれってしつこくって…」
「でも及川さんって俺たちのひとつ上で異動になる前の一年間は本社勤務だったはず……」
「え、そうなの?てことは今更東京観光なんて絶対必要ないよね!?」
「間違いなく柳瀬を誘いたいが為の口実だな」
「うそー…、今時そんな人いる?仕事は出来る人なんだろうけど私なんか苦手。彼氏いるの?って聞かれていないって言っちゃったし」
「そっか………」
「…うん」
「じゃあ、彼氏のフリしようか?」
「…へ?」
「及川さんって人当たりはいいけど女癖が悪いって評判だから。何人も泣かせてきたし、その倍フラれてきたって噂」
「…だろうね」
「だから柳瀬が及川さんに狙われてるってのは俺はちょっと複雑」
「それは同期として心配してくれてるの?」
「勿論それもあるよ。…けどもし及川さんに付き合わされる事があればあの人は絶対酒を勧めてくるから、俺はそこも心配かな」
「あ、…ありがとう」
“心配”……最近じゃお母さんからしかその言葉は聞かない。ましてや男性から言われたのはいつぶりなんだろう。
私の事を本当に気にかけてくれてるんだなって分かるから、それがすごくすごく嬉しい。
「ってことで必要ならそんな嘘もつけよ」
「うん、そうする」
「何かあれば俺に言って」
「…ありがとう、花巻君」
その時丁度“失礼しまーす”と運ばれてきたのは甘い香りのキャラメルミルクティ。
花巻君とのこの空間がそうさせるのかな。キャラメルに甘いクリームが最後の一口まで甘くさせて、今までどこかで制止していた恋心を溶かしていくように感じていた。