第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大
会社のエントランスで花巻君と待ち合わせていてその姿を見つけて駆け寄る。
「ごめんね?待たせちゃって」
「お疲れ。そんな急がなくていいのに」
「でも待たせちゃ悪いと思って」
「…なんだよ、月初めなのに疲れた顔してんな?」
「仕事は順調で調子良かったのに帰りに色々とあって」
「んじゃ、美味いもんでも食べて気持ち切り替えようぜ。俺も初日の挨拶頑張ったし」
「そうだね。ちなみに今日は少し変わったお店なの。普通の居酒屋さんなんだけどデザートが売りでスイーツが美味しいの。花巻君シュークリーム好きだったでしょ?」
「覚えててくれたんだ」
「だって男の人で堂々とスイーツが好きって言う人珍しいもん」
「そう?」
「私ね、お酒があんまり飲めなくて…。だからお酒よりもデザートが充実してるのが嬉しいの」
「飲めなかったっけ?」
「飲むと貧血っぽくなっちゃって…。それで最近は飲まないようにしてるの」
「無理すんなよ。俺となんだし好きなもん食べて飲んだらいいじゃん」
「うん、そうする」
なんでだろ。花巻君の笑顔にホッとする。こうやって隣で歩いて久々に会えて嬉しい気持ち以上になにかがあるのかな…。
「あ、…あそこね、あのお店」
「普通の店だな」
「だから居酒屋さんだって」
「柳瀬が選んだって言ってたから可愛い店なんだと思ってた」
「それどういう意味?」
「え?そのまんまの意味」
“行こうぜ”と横顔が誘う。斜め45度のスマイルは会心の一撃、まさにクリティカルヒット。息をするのを忘れてしまいそうなほど、大きく心臓が高鳴った。