• テキストサイズ

(R18) kiss hug ❤︎ HQ裏夢

第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大


「やっほー柳瀬ちゃーん」

聞き慣れない声なのに、何故か振り向いちゃいけない気がする。

「…はい?」

でも振り返らず無視するのも悪い。恐る恐る振り返ると花巻君のことでいっぱいですっかり忘れかけていた人。

「及川さんでーす」

ですよね…。そう言えばこの人もこっちに来るんだった。

「何か嬉しそうだけど、もしかして俺に会いたかった?」
「…あ、お疲れ様です。今日だったんですね、こちらに来られるのって」
「そう!午前中は別の部署に挨拶に行ってて昼からこっち来たの。結構探したんだから」
「それはどうも…。私も書類出しに行くので失礼します」
「ちょっと待って。俺も仕事終わるんだけどこれから予定ある?」
「今日は…先約が……」
「そうなんだ。それは残念」
「すみません」
「俺、柳瀬ちゃんに東京観光してもらおうと思ってそれだけを楽しみにしてたんだけどな…」

そんな捨てられた子犬のような顔をして……、まるで私が悪いみたいじゃないですか。

「あの…、東京は初めてなんですか?」
「遊びに来たことくらいはあるけど、ほとんど初めてかな」
「そうだったんですか。…なんか、すみません」
「いいよいいよ、気にしないで。3日の歓迎会は来るんでしょ?」
「…あ、はい。参加予定ですけど」
「じゃあその時沢山話そう。それは約束ね」

まぁ話をするだけならと…“分かりました”と頷く。及川さんは嬉しそうに“よかった”と笑う。

「それとさ、柳瀬ちゃんって今彼氏とかいないよね?」
「…いませんけど」
「ってことは堂々と狙っていいって事だよね」
「はい?」
「名古屋で出会った時から気になってたんだよね。俺がこっちに来たのも何かの縁だし、俺の事ちゃんと頭に入れといて」

自信満々に口角を上げて決め顔で私を見る。私だって何年か前なら及川さんの笑顔にときめいたのかもしれないけど、今じゃ胡散臭く見えるだけだった。

「では私は先を急ぎますので。失礼します」

得意の営業スマイルでそそくさとその場を去る。

これからこんな人に絡まれるのかと思うと、嘘でも彼氏がいますって言っておけばよかった。出来上がった書類をさっさと提出して花巻君と待ち合わせの場所へと急いだ。
/ 1333ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp