第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大
「いえ新幹線のチケットももう取ってありますし、明日私の部署に派遣さんが来るので私がいないと……」
「…そうなんだ。新幹線のチケットくらいならなんとかなると思ったんだけどでも一応仕事で来てるもんね。残念」
「すみません」
「いいよいいよ。また来月から向こうで会えるんだし」
さり気なく肩に手を回して…、なんとなく軽い感じ。若く見えるし名札に“主任”ってあるから仕事も出来る人なんだろうけど私はちょっと苦手かも。
「でもさ、俺が向こうに行ったら東京観光とか付き合ってよ」
東京観光…。東京に住んでる私だってしたことないよ…。でもそんなに爽やかに言われたら断るに断れない。
「そう、ですね…。きっと歓迎会とかもあるでしょうし、その時にでも……」
「その時二人きりで行こうね。…じゃあまた」
去り際にふいに耳打ち。本当ならドキドキするシチュエーションなんだろうけど、目の前のせっかくの味噌煮込みうどんが冷えかかっているの事が私には残念だった。
正直、来月から少し気が重い……。
結局名物も食べれなくて駅弁屋さんで買った天むすをパクつく。仕事は充実していたとは言え、及川さんとのやりとりに疲れてしまっていた。帰って明日の朝まで何時間眠れるんだろう…と数える。外は真っ暗で疲れ切った自分の姿だけが虚しく映っていた。