第26章 ❤︎ 抱き締めた君との未来はなくても 菅原孝支
「温かい…」
「うん…」
「もしさ、可哀想とか同情してくれる気持ちがあるなら、抱いてくれないかな?」
「別れたのは分かった。だけどなんで俺に抱かれたいの?それとどう関係があるわけ?」
「……まだあの人が残ってる気がするから…。全部忘れたいの」
「そんなに簡単に忘れられるもん?俺には分からないけど」
「でももう嫌やの。あの人、避妊してって言ってるのに何回も中で出すの。ほんとは嫌だったけど好きだから許してた」
「何やってんだよ…っ。もし妊娠でもしたら」
「それは大丈夫。避妊してくれないからピルも飲んでたし。でも捨てられてから分かったの。思えば全然優しくなかったしなんて馬鹿なことしたんだろうって…。どうしようもなくて私なんてもう消えちゃいたかった」
いちかが話すことが嘘であって欲しかった。手首にはうっすらと紅い痣のようなものがあって優しく扱われなかったんだろうって事実が痛くて苦しかった。
「こうやって抱き締めてれる孝支が優しいの知ってるから。狡いよね、ほんと」
「俺がいるから。もう心配ないから」
声を出して泣き崩れるいちかを抱きしめた腕を離したくなかった。