第19章 不器用な優しさ 瀬見英太
「そこ…、邪魔!」
「…っ、あ、ごめんなさい」
「だからそっちじゃねぇって!」
でもよけた方向が悪かったらしい。もう少しで他の部員打ったのサーブが当たってしまうところだった。手伝いの先輩にも気をつけてねって言われていたのにこの様だ。
「すいませんでした!」
咄嗟に謝ったもののその場の空気は悪くなってしまった。特に集中しなきゃいけないサーブ練習だから一番気をつけておかなくちゃいけないのに。
「おい」
「…英太?」
「ちゃんと周り見てろ」
「ごめんなさい」
「他の部員の邪魔になるんだったら、…出てろ」
「…え?…………はい。…ごめんなさい」
あまりに冷たい態度に私に向けられた言葉なの?って一瞬理解できなかった。でもそのまま背を向けて戻る英太の背に血の気が引いていく思いだった。
その様子を見兼ねてか3年の先輩からボトルの洗浄を任される。体育館外のシンクには使用したボトルは山積みになっていた。
「ごめんね、たくさんあるけど」
「いえ、大丈夫です」
「それとさっきの事は気にしないでね。よくある事だけど、お手伝いさんに怪我させるわけにはいかないから…」
「でも、私がちゃんと見てなかったのが悪いので」
「じゃまた終わったら言ってね」
「はい。ありがとうございました」
先輩の気遣いに情けなさがこみあげてくる。
なんで私なんか呼ばれたんだろう。
こんなことなら断ればよかったのに。
英太といられることが嬉しくて一人舞い上がって、でも結局は邪魔ばっかり。
「何やってんのよ、もう…」
英太は本気で練習してるのに、彼女として情けない。恥ずかしさと自分の甘さに対する悔しさにギュっと胸が痛くなる。
スポンジの泡にぽたりと涙が落ちる。ボトルを洗いながら体育館からは掛け声が聞こえてくるのが、私一人ここに残されてるみたいに感じて、頭では泣いちゃだめだと思っても次から次へと涙は溢れてきた。
それからは体育館でも英太とは目も合わなかった。片付けや翌日の準備に何人かの女の子たちは残り、3年生の先輩たちばっかりだけど少しでも仕事を覚えたくて私も参加した。