第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「あっつ」
そう言って団扇で仰ぎながら、汗をぬぐっている。私は余韻の残る体を起こす事ができず布団に寝ころんだまま、光太郎さんの横顔を見ていた。
充分に愛された後の体は耳に残る吐息と光太郎さんの真剣な眼差しがしっかりと刻み込まれている。
「大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込んで団扇でぱたぱたと仰いでくれる。いつもの優しい表情だ。
「涼しい」
「なんか飲む?」
「うん」
「ジュースでいい?」
そういうとベッドの脇に置かれた小さな冷蔵庫から冷えた缶ジュースを二本取り出す。
「ありがとう。部屋に冷蔵庫あったんだね」
「大学時代に使ってたやつなんだけど捨てるのは勿体なくて」
「まだまだ使えるもんね…」
「いちかちゃんがいいならさ、これから俺の部屋で泊まれば?そしたら宿代なんていらねぇしずっと一緒にいれるだろ?
「でもおばさんに怒られない?」
「全然問題ないと思う。むしろそうしろって言いそうなおかんだから」
「そうなんだ。…でもそうなるとなんか照れるね」
「なんで?あ、もしかして毎晩エッチするとか思ってる?」
「思ってない。そんなの私の体がもたないよ…」
「俺はしたいけどね。でもそこは女の子に合わせる主義だから
「それは私から求めないとしないって事?」
「んなわけないじゃーん。俺もしたいときはちゃんと言うしその気にさせるよう頑張るだけ」
急に抱きしめるからジュースが零れそうなって滴が腕を伝っていく。すかさず唇で拭うように触れ、心臓が跳ねる。
「ごめん。急に抱きしめて」
「んーん」
「いちかちゃんって何でも嬉しいって言ってくれるよな」
「こういう甘い時間って嬉しいもん。光太郎さんって甘やかすの上手だし」
「そうなの?」
「うん」
「でも俺だって何でもかんでもいいってわけじゃないから」
「例えば?」
「さっきさ、いちかちゃんが大学辞めて嫁来るって言ってただろ?」
「あー…勢いでつい」
「え?嫁に来るっていうのも勢い?」
「違う。気持ちはちゃんとあるんだけど、でも大学は卒業しておいた方がいいよねって言った後で思って」
「そうなんだ。ならよかった。俺もそう言おうと思ってたし、せっかく入った大学なんだからちゃんと出ておいた方がいい」
「…だよね。でもいいの?しばらく遠距離になっちゃうけど」
暫く考え込んで突然閃いたように表情をかえた。
