第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「嘘だ…。光太郎さん余裕そうだったのに」
「あそこで取り乱すわけにいかねぇからな。絶対に譲る気なんてなかったから必死で冷静を保ってた」
「全然分からなかった。そんな風に見えなかったから…」
「俺もいい大人だから。それに鉄朗君はいちかちゃんの大事な人だからさ、そのまま大切にしてて欲しい」
「…光太郎さん」
「でも俺だってやっぱ男だからさ、これからは俺だけ見ててね」
それは今の私を全部包んでくれるような言葉だった。感情が高まってるせいですぐに涙が込み上がってくる。
「嬉しい。………ごめんね?すごく嬉しい…」
「愛されてるって感じるだろ?」
「……うん」
「多分いちかちゃんに必要なもんって単純なもんだったんだと思うよ?俺は思ったことはちゃんと口にするし、言葉でちゃんとお互いが繋がっておくのも大事だって思ってるから」
「じゃあ、いっぱい好きって言って欲しい」
「うん。いちかちゃんがもういいって言うくらい言うよ」
こんな風に素直に自分を曝け出すことが出来るなんて、思ってもみなかった。言葉にすることなんて簡単なのに、どうして素直になれなかったのか今思えばそれが不思議なくらい。
「俺の事でいっぱいになるまで今日は抱くから」
「そんなの…。言われなくったってとっくに光太郎さんでいっぱいだよ」
「俺は独占欲強いし俺の事を一番好きって思ってくれなきゃ拗ねるから」
「一番好きだよ。…ねぇ、こんな可愛い光太郎さん知らないんだけど」
「いちかちゃんにしか見せない顔だから…。あとついで性欲も強いから、よろしくねー」
じゃれ合うようにぎゅうっと抱き締めては頬に触れる優しいキス。ゆっくりと後頭部がシーツに沈んでいって真上には光太郎さんの笑顔。
「んじゃ……、そろそろ俺も本気出していいよな?」
「……少しは加減してね?」
「ははっ、むーりーーー」
二人で笑い合った後にもう一度交わす口付け。光太郎さんの下ろした前髪が頬に触れた瞬間に私は幸せだと全身でそう感じていた。