第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「この二人が迷惑をかけたことなのでこのくらいは…」
「…悪いな、あかーし」
「それにいちかさんと約束してたので。……いちかさんを応援するって言ってましたから。その約束を優先しただけです」
何気なく言っていた約束をこんな風に果たしてくれるなんて思ってもなかった…。京治さんという存在にも支えられて、さっきとは違ったあったかい涙が込み上がってくる。
「京治さん……、ありがとう」
「いいえ。その代わり木兎さんのことは頼みましたから」
「なんだよ、3人はグルなのかよ…」
「すいません、二人とも大切な友人なので。……さ、こんなところに居てもしょうがないんでさっさと行きましょう」
「…そうだな。……あ、赤葦君、とりあえず日本酒頂戴ね」
「了解しました。店で一番いいやつ準備します」
「さんきゅ…」
私に背を向けて京治さんの後をついていく鉄朗。光太郎さんがこのままでいいの?と私に視線を送る。このままじゃだめと考えよりも先に鉄朗の名を叫んだ。
「鉄朗!」
「なんだよ…」
「あのね…」
「先に言っとくけどごめんって言葉ならいらねぇから。お前の口からごめんとかもう聞き飽きてんだ…。ごめんって言われるたびに自分がずっと情けなかったから、もう謝んな」
「……でも、」
「……今まで悪かったな。……いちかが幸せになればそれでいいから」
そう言った鉄朗はまだ付き合う前のお兄ちゃんのような存在だったあの頃のような優しい笑みだった。
「……今まで、ありがとう…」
「もういいよ…。リア充はそこで爆発してろ、ばーか」
「素直じゃないな。鉄朗君は」
「うるせぇわ。…じゃあ、またな」
鉄朗の背中を見送ってから、私は涙を止めることが出来なかった。泣いて、泣いて、息が出来ないくらい苦しくて、言葉にならない感情で埋め尽くされていた。
さよならと告げることの痛みと苦しさ。
自分の我儘で鉄朗を傷つけてしまった後悔。
最後は“ありがとう”と伝えられた心からの感謝。
嘘でも“またな”って言葉に見えた未来。
小さな胸には収まりきれなくて、溢れた感情が涙に変わっていく。ただ今はそんな私をずっと抱き締めてくれる光太郎さんの存在が唯一救いだった。