第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
民宿までの道中、私と鉄朗を乗せた車内はまるでお通夜のようだった。鉄朗と喧嘩した時だって不穏な空気だったけど今はそれ以上だった。というかこれまでの人生でこんなに気まずい空気に居たことはあったんだろうかというレベル…。
民宿に着いてそのまま食堂へ向かい、隣には光太郎さん、向かいに鉄朗が座った。そして目の前には何故か刺身の舟盛りに、アワビに伊勢エビ、海の幸フルコースが並べられている。
「光太郎さん…、今日の夕食、どうしたの?」
「いちかと付き合う事になったっておかんに言ったらお祝いだからって。やべー!すげー美味そう!」
「……なんで食堂なんだよ。しかも俺まで」
「鉄朗君も俺といちかのキューピットみたいなもんだろうが。だから食う権利はあるだろ?」
「だから鉄朗君とか馴れ馴れしく呼んでんじゃねーよ。第一お前に渡す気ないっつってんだろ?」
「俺も返す気ないけどさ、とりあえずまずは美味いもん食ってからだ」
「人の話聞けよ」
「食ったらちゃんと話するから。…鉄朗君は海鮮系嫌い?」
「……………そりゃ………好きだけど」
「ならいいじゃん。刺身に罪はない。あ、いちかちゃんそこの醤油取って?」
「うん…。ねぇ、光太郎さんもこう言ってくれてるしせっかくだから鉄朗も食べれば?」
「あーくそ…っ、肉ならまだ我慢出来るのにッ」
「鉄朗君も海鮮好きなんだ。なんだ良い奴じゃん」
「うるせー。おい、俺にも醤油!」
「あ、はい…」
普通ならこんなことあり得ない。でもこれも光太郎さんの明るい性格のおかげなんだろうか……。
いつもと変わらず美味しそうに“うめー”と言いながらご飯を頬張る姿に光太郎さんのハートの強さって凄いというかさすがだ…。
だけど会話が弾むはずもなく黙々と食べ続ける状況に、私の方が耐えられなくなる。空腹だったはずなのにお刺身は美味しいのに、全然箸が進まない。