第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
なんとか無事に山を下り、赤葦さんの店に着いた頃にはすっかり雨は上がっていた。丁度シャッターを上げているところだったらしく私が運転しているのを見て驚いた表情を見せる。
「いちかさんが運転したんですか?」
「光太郎さんに半ば無理やりですけど…」
「あんたって人は…」
「だってこんな単調な生活じゃつまんねぇだろ?」
「だからってなにもこんな雨の日に」
「けど事故らなかったからいいじゃん」
「当然です。木兎さんはもっと危機意識をもってですね…」
「はいはい。それよりさ、コーヒー淹れてよ。お前も飲みたいだろ?」
全く反省してない光太郎さんに呆れるように大きくため息をつく。光太郎さんは絶対楽しんでるしもはや何を言っても無駄なんだろう…。
「…たく、…仕方ないですね。いちかさんもコーヒーで良いですか?」
「はい。私もコーヒーで」
「じゃちょっと待っててください」
そう言って部屋の奥へと入っていく。すぐにコーヒーのいい香りが漂ってきて光太郎さんはニコニコしながら行儀良く座って待っている。
そう言えばこの島に来てから光太郎さんと一緒にいたけど光太郎さんの笑った顔しか見てないな…。だから一緒に居て楽しいし、安らげるんだろうな。
「お待たせしました。…昨日焼いてたクッキーもあるのでよかったら一緒にどうぞ」
「よっしゃ!ラッキー」
「京治さんの手作り?」
「そうです。賞味期限切れ間近の薄力粉があったので」
そう言うとバターのいい香りがするクッキーののった小皿が人数分置かれる。見た目はお店で売っているような綺麗な焼き目のバタークッキーだった。さくっとしててほろっと溶けほどよい甘さとバターの香りが口いっぱいに広がる。
「……凄く美味しい」
「うんめー!!!」
「そうですか?」
「京治さん…、女子力高いですね」
「趣味みたいなもんだよな」
「何作っても美味しい美味しいって食べてくれる都合のいい人がいますからね。作り甲斐はあるので」
「それって俺?」
「以外にいないでしょう?」
「私もいつも美味しいもの作ってくれる友達がいたら絶対懐いちゃう」
「だよなー。美味いもん食ってる時が幸せだもんな」
「それだよ、それ…。私も食べてる時が幸せ」
「………なんだか似てますね」
「何が?」
「二人が…」