第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「え?そう?でもほんとはこのまま恩返しできなかったら死んだ後化けて出そうだなって…」
「なにそれ。せっかくいい話だったのに、台無しじゃない」
「そんな風に言っても笑って許してくれる関係だから。……あ、そういやこの下んとこに沢があるんだけど分かる?」
「濃い霧のところだよね?運転してる時にちらっと見えた」
「あの沢んとこ、今日は霧が出てんだけど晴れてたらすげー綺麗だから」
「ねぇその場所って泳げるの?」
「泳げるし釣りもできるぞ。水もすんげー綺麗なの。今度行く?」
「行きたい。せっかくこっちに来たのにさ、お盆過ぎちゃってるから海では泳げないもん。川とかでも泳げたらいいなって思ってたの」
「じゃあまた空いた時間に連れてきてやるよ。一人はなんかあったときに危ねぇから」
「うん。じゃあその時は水着着てく」
「ビキニ?」
「え、そうだけど…?」
「あー…、なら覚悟しとこ」
「なんで?」
「いんや、なんでもねぇ。…そうだ、今からあかーしんところでコーヒーでも飲んでく?」
「コーヒーまであるの?」
「インスタントだけどなぁ。この辺気軽に入れるような店なんてねぇしな」
「行く行く。ちょうど何か飲みたいなって思ってたところだから」
「じゃあ帰りも運転頼むな」
「それ本気で言ってる?」
「練習しねぇと上達しねぇぞー」
「上達しても基本的にペーパードライバーだし向こうじゃ車使わないもん」
「でもまた秋にこっち来るんだろ?だったら練習も必要じゃん」
「光太郎さんは運転してくれないの?」
「隣に乗ってやるから…な?」
「でも…」
「自分で運転できるようになったら楽しいぜ?」
「そうだけどさぁ」
「んじゃ、よろしく」
“ほいっ”と言いながらキーを手渡され、さっさと助手席へ乗ってしまう。仕方なく運転席に座ると隣では満面の笑みで光太郎さんは微笑んでいた。
「……言っとくけど超ゆっくり帰るからね」
「いいよー?ばーさんに言われた通り束の間のデートしようぜ」
なんだかうまく丸め込まれた感じがするけど、行きよりは小雨になっていて視界もまだマシ。やるしかないな…とため息をついて緊張で体が硬くなりながらもまた私はハンドルを握った。