
第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎

「はい。ありがとうございます。またお邪魔させていただきます」
「光太郎ちゃんならきっと幸せにしてくれるわよ」
「…ぁ、……はい。そうですね」
おばあさんの言ってる事はよく分かる。光太郎さんの恋人は絶対に幸せになれるだろうなと思うもん。羨ましいなってそう思うからこそ光太郎さんにとって私ってなんなんだろう…そんな疑問が初めて芽生えたんだ。
玄関先で傘がふたつ並ぶ。おばあさんとしばらく世間話をしてから“光太郎ちゃん、これ…”とポチ袋を二袋私たちに手渡す。
「だからばーちゃんいいって」
「ほら、いちかちゃんも…、少ないけどね」
「いえ、私はただ着いてきただけなので受け取れません」
「ほんの気持ちだから。いいから持って行きなさい。これから若い者同士デートでもしなさいな」
「デートって行ってもばーさんなんもない島だぜ?知ってると思うけど」
「なら街まで出てスーパーふくろうで好きなお菓子でも買って」
「ばーさん、俺もう成人してるからぁ…。中身は全然変わってないけど俺もう24…」
「いつまで経っても可愛い孫なのよ。…今日は孫がもう一人増えて嬉しいの。いつも気にかけて貰って、御礼をちゃんとしないと息子に叱られるから」
「んー、じゃあまた息子に連絡しとくから…。たまには顔見せろって言っとく」
「お願いね、光太郎ちゃん」
「へいへい。んじゃそろそろ戻るか」
「でもこれ…、私までいいの?」
「いつものことなんだけどばーちゃんの生きがいみたいなもんだから。だから快く受け取ってやって?」
「また遊びに来てね、いちかちゃんも」
「はい。急にお邪魔しちゃって、心遣いまでありがとうございました」
「光太郎ちゃんのことお願いね。こう見えて寂しがり屋だから」
「それ以上言わなくていいから」
手を振るおばあさんに軽く会釈して車へと戻る。雨はだいぶ小雨になってはいたけど沢の方には白い霧が立ちこめていた。
「ばーちゃんにしたらいつまでも俺は子供のまんまなんだろうな。今も昔もかわいがってくれてるんだよな」
「男の子だし特に可愛いんだろね。それに今もこうやって気にかけてくれてるのが嬉しいんじゃない?」
「ガキん頃から大事にしてくれたんだから逆に俺たちもばーさん大事にしねぇとな…」
「そうだよね。当たり前なんだけどこうやって行動出来るのはすごいよね。私、光太郎さんのそういう考え好きだよ」
