第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「ありゃ…」
「そうそう、そんな感じでいいよ。ここ結構深いから近くでも十分狙えるから。後は適当に時々動かしたりリール巻いたりしてて」
「うん…、やってみる」
波の音を聞きながら竿をゆっくり前後に動かす。時々エサ先をつつくのか竿が震えるような感覚にリールを巻いても何も釣れず、エサをつけてひたすらその繰り返し。
「釣りってもっと簡単に釣れるもんなんだと思ってました」
「釣れる時は入れ食いなんだけどなぁ。まぁこんな日もあるわな」
「でものんびりしてていいね」
「なぁんも考えなくていいからな…」
「そうだね……、ってあれ?竿が……動かない」
「あー、もしかして底に引っかかった?」
「そうなのかな…、あーだめ、動かない」
「んじゃそっち行くわ」
光太郎さんの言う通り、引っかかってしまったのかな。何度引っ張ってもびくともしない。こっちに来てくれた光太郎さんが後ろから抱き締めるような形で手に持っていた竿を握る。抱き締められているようで肌の触れる距離に心臓は跳ね上がる。
「あー、こりゃダメだな」
「ごめん…」
「いや、気にすんな。よくあることだから。…貸して?」
「……うん」
実際には抱き締められたわけじゃないけど太くてがっしりした二の腕につい意識してしまって顔もちゃんと見れなくて、しばらくはドキドキしたまま落ち着かなかった。