
第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎

身支度が終わらせて1階へと降りる。食堂と言われた隣の部屋からテレビの音。確かここでいるからとそう言っていた。
「木兎さん?」
こんこんっとノックをするとしばらくしてからガラっと扉が開く。ここは自室なのか部屋の中にはロック歌手のポスターや少年漫画のフィギュアなんかが飾られているのは見えた。
「んじゃ行くか。だいぶ涼しくなって来たけど虫除けした?」
「はい、ばっちりです。木兎さんの時間とらせてすいません」
「俺はついでに買い出しもあるし、気にすんな。…あと、光太郎でいいから」
「はい…。じゃあ光太郎さんで」
「OK。予約表見たけど俺より3歳年下なんだな」
「てことは光太郎さんは24?」
「そう。だから遠慮しないで何でも言って?」
「そうします。ずっと都会で育ってきたのでいざ来たもののどうしたらいいんだろうって思ってたので」
「んじゃ一週間楽しもうぜ」
「はい!お願いします」
こんなにワクワクした気持ちになったのはいつぶりなんだろう。大学生活のために一人暮らしを始めてひたすらバイトと勉強の毎日。嫌な事も沢山あってやさぐれてた事もあったけど、私にもようやくツキがまわってきたのかな。
「そういえば他のお客さんは?」
「昨日までお盆休みのお客さんが何人か来てたんだけど朝帰ったから、だから今はいちかちゃん一人」
「だからこんなに静かなんですね」
「先週までは子どもが走り回ってすげー賑やかだったんだけどな。でも一人旅には静かな方がいいだろ?」
「んー、そうですね。潮風に吹かれてゆっくり読書なんて憧れてたから」
「丁度いいタイミングだったな。あ、この建物結構古いけど耐震とかはもう対応してるからその点は心配いらないから」
「内装したんですか?」
「改装もしたんだけどおかんがレトロとかそういう雰囲気が好きらしくって使えるもんは殆ど使ってんだって、だから雰囲気はずっとこんな感じ」
「そうなんだ。でもいいなぁ…」
ふと見れば共同だといっていた浴室前のシンクは白と水色のタイルが規則正しく並べられていて、真鍮の蛇口なんてまさにレトロという言葉がぴったりだった。
それに、この檸檬の形の石鹸…、こんなの見たの小学生以来だ。
「懐かしい」
初めて来た場所なのにそう思わせる空間。なんだかこの場所だけ時間が止まってるみたいで不思議だ。
でも今の私には丁度いいかもしれない。
