第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「もうすぐ着くから」
「あ、はい」
そう言われて着いたのは写真通りの旅館…というよりは確かに民宿と言った方が近い感じのレトロな建物。蝉の鳴く音だけが響いて、近くの畑にはスイカやカボチャやトマト、軒下から伸びる緑のカーテンにはゴーヤや朝顔、ぱっと気持ちが明るくなるような光景が広がっていた。
「いいところですね」
「そうか?」
「こういうところに憧れてたんで」
「けど虫も多いよ?女の子なのに大丈夫か?」
「一応虫除けとか薬とか持ってはきました」
「ならいいけど、毒のある虫もいるから噛まれたりしたら俺に言えよ?すぐに病院も行けないからな」
「そうします」
「あとは…、この辺買い物っていっても小さな店しかないから。あとで散歩がてら一緒にいこうぜ」
「色々とありがとうございます。お世話になります」
「気にすんな。久しぶりに若い女の子だし俺も嬉しいし。ちなみに俺、今嫁募集だから気が向いたらよろしくなーなんつって」
豪快に笑いながら“はぁ…”なんて気の抜けた返事を返す。冗談なんだろうけどにかっと笑う顔が印象的で悪い人じゃなさそうなところに正直ホッとしていた。
その後、客室に案内され8畳ほどの部屋には小さな机と小さなテレビが置いてあった。シンクにはコンロもあって1Kの部屋で生活している私一人にはそれだけで十分だった。
「風呂は共同になるんだけど、1階な?男女で時間が違うから気をつけて」
「はい、分かりました」
「じゃあまた支度終わったら声かけて?散策しようぜ」
久々の畳の匂いと窓を開けるとほのかに海の香り。毎日暑いから気がつかなかったけど、日が傾くのが早くなったようにも思う。ゆっくりと秋が近付いてきてるんだね。